■□■ petty cash book.3 ■□■
4ページ目
 
別れの予感。
たった9行の中に半年分の情報がつめこまれている。
もう書かなきゃいいのに、と思う。
こんなんだったら書かなくても同じだよ、と。

でも。それでもサトウヨシヤ少年は書き続ける。

「あぁ・・・また書き忘れちゃった・・・」と反省はしてみるものの、
何に使ったのか思い出せない。
もちろん計算も合わない。
書くことがどんどんつまらなくなってくる。

己との戦い。
おこづかい帳を書くことより楽しいことは山のようにある。
でも、ストイックな自分でいたい。

その精神は、彼の中で今も生きているような気がする。

2月15日 (プラモデル)マイナス¥150

全財産を使ってしまった。
ここで1回記入が途絶えている。
文字も心なしかフェイドアウトぎみだ。

3月20日 こずかい プラス¥500

気を取り直してもう1回書き始める。
きっかけはやっぱり「おこづかい日」だ。

3月22日 プラモデル マイナス¥500

あまりにも乱暴な金遣い。
もらった翌々日に全財産を使ってしまった。
よほど欲しかったのか。
それとも何か嫌なことでもあったのか。

4月30日 ーーーーーー ¥325

3月22日からまた途切れた・・・というわけではない。
お金がなかったのだ。単純に。
せっかく春休みだったのに。
あのプラモデル買わなければ良かった・・・・と、
ものすごく後悔したに違いない。

5月1日 プラモデル マイナス¥325

何かに取り憑かれたようにプラモデルばかりを買っている。
全財産使うのはマイブームなのか。
5月20日 こずかい プラス¥600

おこづかいが値上がっている。
あれか。
学年上がると100円アップか。
うちもそうだったが。

8月1日 プラモデル

久しぶりに書いて、ヤル気が見られるかと思ってのに、
プラモデルの値段すら書いていない。
しかし、これによって残高は¥0になってしまった。
もう何も言うまい・・・・。

■□■ サトウヨシヤ・本人解説 ■□■

だらしない事や飽きやすいことにかけて天下一品と自負する僕にとって、

このお小遣い帳への挑戦は少し厳しすぎたのかもしれない。

お金がなくたって喰っていけるテンション全開の子供にとって貰った金は即使え!だ。

欲しいものを欲しいだけ買うのだ。

無ければ万引きだ。

法律なんか関係ない。

世間体だって気にしない。

悪い事と良い事の区別なんかない。

親に隠れてうまくやれ!だ。

何でも最初は夢中だ。

あぁ夢の中、、、気持ちがいい。

それがお小遣い帳であってもだ。

しかし途中でこれに何の意味があるのかわからなくなったのだろう。

<使ったお金と買った品物を書いていく>

一体この作業のメリットはなんだ?

そう思ったに違いない。

これをやることによりお小遣いが上がるのか?

1P埋めるごとにもれなくプラモが付いてくるのか?

さらに10P溜めると憧れのロングスケールのヤマトになるのか?

大好きなポークステーキが毎晩食卓を飾るのか?

ウィンカー付の自転車が朝、枕元に横たわっているのか?

ドリフを見てもいいのか?

好きな女の子の隣の席に移動できるのか?

寒い日のプールに入らなくてもいいのか?

じゃんけんに負けても勝った事にしてもいいのか?

いや、そうではない、、、。


なんだかとっても楽しかったお小遣い帳の日々は終りを告げようとしている。

ある日、僕の中で何かが変わった。

瞬きをくり返す死にかけた街灯の明かりは、もうあの頃の様に煌々と夜を照らす事はない。

くり返す瞬きは明日にでも確実に光を失うだろう。

来たるべく新しい光が身体にセットされるまで。

夢中になるいろんな事柄は、<夢中〜非夢中>の半分くらいにメモリが下がった時、

想いは加速度を上げて下へ下へ落ちていく。

キモチバランスは崩れたら後は倒れるのみだ。

そして僕は新たな夢中アイテムを手にいれるべく無意識に奔走する。

とても早いスピードで。

あちこちにぶつかりながら迷走して辿り着いた知らない町の知らない道端で、ふと手

にした何気ない夢中アイテムが人生を変える事だってある。

それが曇り空の日であってもだ。


まるでここは夢の中みたいだった、って死ぬ時に思いたい。

それはきっとそんなに難しいことではないはずだ。

とも思いたい、、、。


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